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【後編】山口 進

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やまぐちすすむ・1948年、三重県生まれ。大分大学経済学部卒業。電機メーカーのSE(システムエンジニア)を経て、76年より昆虫植物写真家・自然ジャーナリストとして活動している。「花と昆虫の共生」をテーマに国内外で取材・撮影。NHKの自然番組『ダーウィンが来た!』『ワイルドライフ』などの企画撮影を手がけるほか、「ジャポニカ学習帳」(ショウワノート)の表紙を78年から約40年にわたってひとりで担当している。2001年、写真集『五麗蝶譜』(講談社/1988年発行)で日本蝶類学会江崎賞受賞。おもな著書に『クロクサアリのひみつ 行列するのはなぜ?』(アリス館)、『実物大 巨大昆虫探検図鑑』(岩崎書店)、『砂漠の虫の水さがし』(福音館書店)、『地球200周! ふしぎ植物探検記』(PHP サイエンス・ワールド新書)、『カブトムシ山に帰る』(汐文社)など。自然科学写真家協会会員、日本鱗翅学会会員。

前編では電機メーカーのSEから転身し、写真家として頭角を現すまでの経緯をうかがいました。
後編では秘境での撮影のご苦労や、好きなことで食べていくための秘訣(ひけつ)についてお話しいただきます。

昆虫や花を追い求めて地球200周。自然が相手だから、計画通りにはいかない

-「ジャポニカ学習帳」に掲載された写真は、約40年間で1200枚を超えるそうですね。同じ写真は二度と使わないとか。どのくらいの頻度で撮影されているんですか?

最初のころは1年ごとに改版していましたが、今は5年に1度。以前よりは時間に余裕があるものの、世界中で都市開発が進み、撮影は難しくなっています。かつてはどこでも見られた昆虫や花もかなりの奥地に行かないと撮れず、通信機器の発達や経験の蓄積から情報収集は速くなったとはいえ、現地での滞在時間が短くはなりません。現在は「ジャポニカ」以外の仕事も多いので、1年の3分の2くらいは海外に出かけています。写真家になってこれまでに地球を200周以上はしたでしょうか。

 

先日も南米のパンタナール(ブラジル、パラグアイ、ボリビアの3カ国にまたがる世界最大級の湿地帯)周辺にしか分布しない植物を撮影してきました。電気はおろかトイレもないような場所に長期間滞在し、車の入らない場所に重い機材を担いでの仕事。秘境での撮影は肉体的にかなりキツイですし、自然が相手だから、計画通りにはいかない。目的のものがいつ撮影できるのかわからないのがしょっちゅうです。そんなとき、僕は割と打たれ強い(笑)。「ここで現地のみんなと一緒に目的を達成しよう。もし、日本に帰れなくなっても、それでいいや」と考えるタイプなんです。「ああ、早く日本に帰りたい」とグジグジ考えていても何の解決にもならないですしね。仕事には不測の事態がつきもの。置かれた状況から逃げず、「自分はここでやっていく」という覚悟を決めるというのが大事だと思います。

 

踏ん張って続けていれば、いつかはその仕事で食べていけるようになる

-山口さんのように好きなことを仕事にしたいけれど、食べていけるかどうかが不安でためらう人も多い気がします。

僕も写真家になって10年くらいは機材や取材費など投資の方が多くて、家族には心配をかけたかもしれません。でも、僕自身は前しか見ていなくて、「誰にも撮れないものを撮ろう」ということしか考えていませんでした。「食えなければ、そのへんの草でも食べていればいい」というような調子でね(笑)。夢が大きければ大きいほど、食えない時期というのはあるものです。でも、そこで踏ん張って続けていれば、いつかはその仕事で食べていける。常に遠くを見るというのかな。長い目で物事を考えて、あきらめないでほしいですね。

 

それから、社会に出るにあたって「やりたいことがわからない」という人もいますが、僕自身もそうでした。ぼーっとしていて就職活動に乗り遅れ、見かねた研究室の先生が紹介してくれたのが、就職した電機メーカーだったんです。特にやりたいことがあって入社したわけではありませんが、そこで一生懸命仕事をして、プログラミングの技術を身につけたことが写真の道に入ってからも身を助けてくれました。写真だけでは食べていけない時期にアルバイトができたのもそうですが、当時の知識は今も役立っています。プログラミングをするときにはフローチャートを作って論理的に物事を考えるので、山で昆虫を見つけて瞬時に撮影しなければいけないときも状況判断がクリアにできるんです。どんな場所にいたとしても、一生懸命やったことは必ず糧になると思いますよ。

 

学生へのメッセージ

「人と同じことをやらないのが大事」とお話ししましたが、世の中が進化して新しいものが次々と登場し、「これ以上、新しいものなんてあるの?」と思う人もいるでしょう。でも、探せばあるんですよ。例えば、僕にしてもこれまでは「花と昆虫の共生」を主なテーマとして撮影してきましたが、今は自然と民族の関係にも大きな関心を持っていましてね。同じ植物を撮影するにしても、虫とのかかわりを撮るのと、民族の文化とのかかわりを撮るのでは、表現がかなり変わってくるはずです。新たな切り口を探すには、物事を多角的に考える力が必要です。その力を蓄えるために大事にしてほしいのは、物事への驚きと、好奇心から生まれる疑問。物事に驚いたときに「ふーん」で終わらせず、「なぜだろう?」と考えてほしいんです。考えて理由がわかれば、また驚きが生まれ、次の疑問も湧く。その驚きと疑問の繰り返しで人は成長していくのだと思います。

 

山口さんにとって仕事とは?

-その1 置かれた状況から逃げず、「自分はここでやっていく」という覚悟を持つ

-その2 やりたいことがあるのなら、長い目で物事を考え、あきらめない

-その3 可能性を伸ばすために大事なのは、人と同じことをしないこと

 

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INFORMATION

昆虫学者・丸山宗利さんが成長の過程で出合った虫を、山口さんの写真と共に振り返るフォトエッセー『わくわく昆虫記 憧れの虫たち』(講談社/定価:2000円+税)。55種の昆虫が撮影されているが、そのほとんどが掲載する種が決まってから1年をかけて撮り下ろされたもの。「撮り下ろしをするのは僕からの提案でした。丸山さんの子どものころの虫への気持ちや視点を想像しながら撮ることで、写真にストーリーを持たせたかったんです」と山口さん。丁寧に作られた、ぜいたくな一冊だ。

 

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取材・文/泉 彩子 撮影/臼田尚史


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